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藍城家の日常
第1章 私の旦那様
静寂に声が落ちる。

冷くて低い声。
なのに、どうしてだろう。
滑らかで、するりと耳に、心に、入ってくる……

夜光様の声音は妙にひとを魅了する。
私もその、妖しい声に振り向いた者のひとりだ。
あっという間にひきこまれてしまった。


(私は夜光様のものです)


猿轡が邪魔をして、自分の口から想いを伝えられない。

彼は望んでいるのだ。
私の口から、愛と服従の言葉を聞いて、安堵したいのだ。

彼の期待に答えられないことを誉は悔やんだ。


『……んぅ、ん……ぅあ、あぁ……』


誉は、静かに襖を開けて足を踏み入れた夜光を見つめた。

長く伸ばした髪は深い藍色。
夕日の光にさらされて、オレンジ色に光っている。

整った顔は無表情だが、どこか妖艶な雰囲気を漂わせていた。

彼は人間の姿をしているがあやかしだ。
彼は鬼だ。
それも、人間の血を引いた混血、ハーフというもの。

そうだからか、怖いくらいに美しい他のあやかしよりも、生々しさがあって、それが逆に、艶かしくさせている。



「『……』」


視線が交わる。

夜光様の藍城家の証である紅眼が
裸で縛られて、太股をぐちょぐちょに濡らした私を、見下ろしている。

凍てつくような冷たい瞳だ。
しかし誉は、その瞳の奥に燃えるものを見逃さなかった。

狂おしいほどの情欲が、ごちゃまぜになって、何が何だか分からずに、静かに燃えているのだ。

愛情、欲情、嫉妬、憎悪…

赤く、どこまでも赤く、深く。


(私は夜光様のものです)


誉は決して視線を反らさない。

“目は口ほどにものを言う”と聞く。
私の想いは彼に伝わっているのだろうか?




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