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藍城家の日常
第3章 桃のシロップ漬け
『今でも良いと思ったのです、兄さん』
大人しく座っていた誉は思いきって口を開いた。
少しでも自分の考えを知ってほしかった。
『これから私が、どこかへ嫁がなければいけないなら……今でも変わらないと思ったのです』
伏し目がちに話す誉の言葉に炎鬼は、訝しげに眉間に皺を寄せた。
続けて話そうとする誉に片手を挙げて遮る。
「ちょっと待て誉。嫁がなければいけない?確かに俺はお前に嫁ぐ気はあるかとは聞いたが、どこかへ嫁げなんて一言も言ってないぞ!」
『えぇ、兄さんはそんなこと言ってません。でも私がそう感じたから……』
これは、前から思っていたこと……
「何をだ?」
『……兄さん、私がここに来て十年程経ちました。ずっと炎鬼兄さんのお世話になるわけにはいかないと思ったからです。そろそろ、自立しなければと……』
自分を見つめてくる誉の瞳が、あまりにも真っ直ぐで、炎鬼は狼狽えた。
もうそんなことを考えるようになったのかーーー
「だ……だからって、見ず知らずの男の好きなようにさせるのか?それならいっそ俺と結婚した方が何倍もマシだな!」
思わず炎鬼はそんなことを口走ってしまう。
『私が……炎鬼兄さんと?』
いきなり何を言い出すのか。
突拍子な発言に誉はきょとんと目を丸くして、炎鬼を覗き込むようにして見つめた。
彼はしまったというような、ハッとした顔をしてから、もごもごと口を開く。
「た、たた例えだ。とにかく、お前はいつも勝手に遠慮して相手に譲る。そこは誉の長所でもあるが……度を過ぎるといけない。もっとこう、欲ってものがないのか」
『ありません。もう十分、幸せですから』
くどくどと説教を続ける炎鬼に、誉はへらりと笑った。
みなしごの私が彼に助けてもらって、どれほど幸福者だったか。
食べるものがあって、気持ちよく眠れる場所があって……
何より、心が温かくなるような、このうえなく心地よい居どころで過ごすことができた。
兄さんは私に色々なことを教えてくれた。
言葉に尽くせない。
そこからもそろそろ、巣立つ時が来たのだ……
大人しく座っていた誉は思いきって口を開いた。
少しでも自分の考えを知ってほしかった。
『これから私が、どこかへ嫁がなければいけないなら……今でも変わらないと思ったのです』
伏し目がちに話す誉の言葉に炎鬼は、訝しげに眉間に皺を寄せた。
続けて話そうとする誉に片手を挙げて遮る。
「ちょっと待て誉。嫁がなければいけない?確かに俺はお前に嫁ぐ気はあるかとは聞いたが、どこかへ嫁げなんて一言も言ってないぞ!」
『えぇ、兄さんはそんなこと言ってません。でも私がそう感じたから……』
これは、前から思っていたこと……
「何をだ?」
『……兄さん、私がここに来て十年程経ちました。ずっと炎鬼兄さんのお世話になるわけにはいかないと思ったからです。そろそろ、自立しなければと……』
自分を見つめてくる誉の瞳が、あまりにも真っ直ぐで、炎鬼は狼狽えた。
もうそんなことを考えるようになったのかーーー
「だ……だからって、見ず知らずの男の好きなようにさせるのか?それならいっそ俺と結婚した方が何倍もマシだな!」
思わず炎鬼はそんなことを口走ってしまう。
『私が……炎鬼兄さんと?』
いきなり何を言い出すのか。
突拍子な発言に誉はきょとんと目を丸くして、炎鬼を覗き込むようにして見つめた。
彼はしまったというような、ハッとした顔をしてから、もごもごと口を開く。
「た、たた例えだ。とにかく、お前はいつも勝手に遠慮して相手に譲る。そこは誉の長所でもあるが……度を過ぎるといけない。もっとこう、欲ってものがないのか」
『ありません。もう十分、幸せですから』
くどくどと説教を続ける炎鬼に、誉はへらりと笑った。
みなしごの私が彼に助けてもらって、どれほど幸福者だったか。
食べるものがあって、気持ちよく眠れる場所があって……
何より、心が温かくなるような、このうえなく心地よい居どころで過ごすことができた。
兄さんは私に色々なことを教えてくれた。
言葉に尽くせない。
そこからもそろそろ、巣立つ時が来たのだ……