この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
藍城家の日常
第3章 桃のシロップ漬け
『……何も言わずに、そうしてしまったのは私がいけませんでした。ごめんなさい……兄さん、どうか私を許してください』
自分に向ける視線を一切反らさない誉に、炎鬼は強い意思を感じていた。
「……」
腕を汲んだまま、炎鬼は唸る。
「……お前の気持ちはよく分かった。だが、あの男はダメだぞ。アレはいかん」
『……彼の噂は聞いています。兄さんが思っている通り、私は弄ばれたのかもしれません。ですがそれも、自分で確かめたいのです。どのような方なのか、知る努力をしたいのです』
もう乗りかかった船。
たとえどんな結末でも、悔いのないように。
「好きでもないのにか?」
『好きでもないなら、好きになる努力をします。あの方と、恋をします』
「……」
炎鬼はガシガシと頭をかいてまた唸る。
『兄さんっ』
誉は子犬のようにきゅんきゅんすがる瞳で彼を見つめた。
炎鬼は誉のその瞳に見つめられると、どうにも断れない。
「~っ!分かった!ただし、困ったことがあったらいつでも帰ってこい。俺からも様子を見に行く」
とうとう屈してしまった炎鬼。
誉は緊張していた顔がゆるゆると緩んでいくのを感じた。
と同時に、喉から何かがせりあがってきて、目にうっすら涙を浮かべる。
自分はもうこの家を発つのだという実感が、フツフツと沸いてきてしまった。
『ありがとう……炎鬼兄さん、今まで、本当に、ほんとに、お世話になりました……っ』
「誉……」
(会えなくなるわけじゃないけれど、やっぱり寂しい )
『っ』
うるうるする妹に、兄もつられてくる。
炎鬼は誉を後ろから抱き締めて、ポンポンと頭を撫でながら背中をたたく。
昔から、誉が泣いている時彼はこうしてあやしてくれるのだ。
それも、遠いものになる……
「辛いことがあったら言えよ」
『はいっ……』
「分からないことがあったら聞けよ」
『はいっ……』
誉はしゃくりながらこくこく頷く。
「……」
それでも炎鬼は、やはりこの先大丈夫だろうかと心配で気が気じゃない。
体が弱くてお人好し。
あまりにも純粋すぎて、真っ直ぐ。
そんな妹を、あの氷のような冷たい目をした男は大切にするのだろうかーーー
自分に向ける視線を一切反らさない誉に、炎鬼は強い意思を感じていた。
「……」
腕を汲んだまま、炎鬼は唸る。
「……お前の気持ちはよく分かった。だが、あの男はダメだぞ。アレはいかん」
『……彼の噂は聞いています。兄さんが思っている通り、私は弄ばれたのかもしれません。ですがそれも、自分で確かめたいのです。どのような方なのか、知る努力をしたいのです』
もう乗りかかった船。
たとえどんな結末でも、悔いのないように。
「好きでもないのにか?」
『好きでもないなら、好きになる努力をします。あの方と、恋をします』
「……」
炎鬼はガシガシと頭をかいてまた唸る。
『兄さんっ』
誉は子犬のようにきゅんきゅんすがる瞳で彼を見つめた。
炎鬼は誉のその瞳に見つめられると、どうにも断れない。
「~っ!分かった!ただし、困ったことがあったらいつでも帰ってこい。俺からも様子を見に行く」
とうとう屈してしまった炎鬼。
誉は緊張していた顔がゆるゆると緩んでいくのを感じた。
と同時に、喉から何かがせりあがってきて、目にうっすら涙を浮かべる。
自分はもうこの家を発つのだという実感が、フツフツと沸いてきてしまった。
『ありがとう……炎鬼兄さん、今まで、本当に、ほんとに、お世話になりました……っ』
「誉……」
(会えなくなるわけじゃないけれど、やっぱり寂しい )
『っ』
うるうるする妹に、兄もつられてくる。
炎鬼は誉を後ろから抱き締めて、ポンポンと頭を撫でながら背中をたたく。
昔から、誉が泣いている時彼はこうしてあやしてくれるのだ。
それも、遠いものになる……
「辛いことがあったら言えよ」
『はいっ……』
「分からないことがあったら聞けよ」
『はいっ……』
誉はしゃくりながらこくこく頷く。
「……」
それでも炎鬼は、やはりこの先大丈夫だろうかと心配で気が気じゃない。
体が弱くてお人好し。
あまりにも純粋すぎて、真っ直ぐ。
そんな妹を、あの氷のような冷たい目をした男は大切にするのだろうかーーー