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藍城家の日常
第3章 桃のシロップ漬け
「妹を泣かせるようなことをしたら、ただではおかない……妹が味わった分の痛みを俺がお前に与えてやる……!」


誉もびっくりするほどの凄んだ声。
炎鬼は口をぎゅっと結び、険しい表情で威嚇した。


「はっ……妹、か」

「っ……妹だ」


一瞬だけ目を見開いた炎鬼に、夜光はお見通しだ、とでも言うように口を歪めて嘲笑する。


「できるものならやってみろ。泣かせるようなことを‘しない’とは言わねぇ」

「貴様……っ!」


ピリピリとした、まさに一触即発の空気。

今にも噴火しそうな兄を、口元を歪めている夜光様は面白がって、からかっているのだろうか。


「これから……俺の上でも下でも何度でも鳴かせてやる」


その言葉に、炎鬼は目を見開いた。
彼をそうさせる理由が誉には、まだ分からない。


『……?』

「……っ!!」


誉は炎鬼がぎゅっと拳を握って、腰を僅かに屈めているのに気付く。

(いけない……!)


たとえ何があっても、滅多に他人に手をあげない兄さんが今殴りかかろうとしている。

きっと夜光様はそれに気付いている、なのにどうして……

誉は咄嗟に今まさに動きだそうとする炎鬼にからだ全体を使って止めにかかったーーー


『兄さん!だめ……っ』

「!」


精一杯背伸びをし、己を抱き締める小さな体に炎鬼はピタリと動きを止める。


『お願い兄さん、やめて……』

「誉……」


ぎゅぅぅ
彼の首元に誉は顔を埋めて、必死ですがる。

(そんな炎鬼兄さんは、見たくない……)


「……」


ようやく炎鬼は固く握っていた拳を開いて、誉を抱き締め返した。

誉がホッと胸を撫で下ろすと、視界の隅に夜光が入る。


(え?どうして……?)


思わず誉は彼に目を奪われた。

あの夜光が驚きと、怒りが混ざりあったような、今まで見たことがない表情をしていたのだ。

夜光は何かの衝動を抑えるように、目があった誉と視線を反らす。


(どうしてそんな顔を……)




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