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藍城家の日常
第3章 桃のシロップ漬け
「……もう、良いだろう。さっさとお前は帰れ」
しばらく別れを惜しんでいた炎鬼から、夜光は誉を引き剥がして、冷たく言い捨てた。
「……」
『兄さん、帰り道に気を付けて』
「あぁ、また来る」
炎鬼はもう一度夜光を睨み付けて、きびすを返す。
何度も振り替える炎鬼を、誉は最後まで見送った。
『あぁ……』
行ってしまった。
今日から、彼が居ない生活が始まるのは分かっていても、寂しい。
しんみりしてくる。
そんな感情の中にも、先程見せた夜光の表情がちらついて、誉は気になっていた。
(彼は何に驚いて……いや、怒って……?)
見たことのない意外な表情は誉も戸惑うくらいだ。
ジャリ……っ
突然外に敷かれていた玉砂利が擦れる音を背後に聞いて、誉は振り向いた。
その瞬間。
ぐいっと腕を痛いくらいに捕まれて引っ張られる。
『っ!?……ゃ、こ……っ!んんっ!』
彼の名を呼ぶ暇もなく、その唇を塞がれる。
まるで獣のように噛みついて、貪るような、激しい口付け。
『ふ、ん……っぁ』
(あ……息が……っ)
できない。
誉は必死に今朝の‘練習’の感覚を思い出していた。
今朝の口付けとは全く違う……
優しさなんか微塵も感じない。
執拗に舌が押し入れられて絡まって、唇で唇をはんで、ついていけない誉の歯が夜光の歯と当たる。
カチ……っ
『あ、やこ……っさま……も、……ゃっ』
脳髄が痺れる。
体の重心を保っていた膝をガクガクと震わす誉を、夜光は玄関の壁に押し付けた。
唇が離れると、両手首を強く掴まれる。
『ぃっ……』
「俺は独占欲が強い男だ。俺のものになったのなら、それ相応の態度を見せろ……他の男に触れるな、触れさせるな……!」
熱い吐息混じりに、耳の底に響く低い声。
「嫁ぐなら誰でも良いと言ったな……つまりお前は、俺‘で’良いと思ってる」
『……』
誉は否定の言葉を返せない。
「俺にはそれが一番気に食わねぇ……だから」
ぐっと顎を掴まれる。
誉を貫く赤い瞳の裏では、狂気に近いほどの感情が混じりあっているということを、誰も知らない。
「誉がむせび泣いて俺‘が’良いと言うまで、お前を変えてやる。心も体も、俺無しでは生きていけなくしてやる……」
しばらく別れを惜しんでいた炎鬼から、夜光は誉を引き剥がして、冷たく言い捨てた。
「……」
『兄さん、帰り道に気を付けて』
「あぁ、また来る」
炎鬼はもう一度夜光を睨み付けて、きびすを返す。
何度も振り替える炎鬼を、誉は最後まで見送った。
『あぁ……』
行ってしまった。
今日から、彼が居ない生活が始まるのは分かっていても、寂しい。
しんみりしてくる。
そんな感情の中にも、先程見せた夜光の表情がちらついて、誉は気になっていた。
(彼は何に驚いて……いや、怒って……?)
見たことのない意外な表情は誉も戸惑うくらいだ。
ジャリ……っ
突然外に敷かれていた玉砂利が擦れる音を背後に聞いて、誉は振り向いた。
その瞬間。
ぐいっと腕を痛いくらいに捕まれて引っ張られる。
『っ!?……ゃ、こ……っ!んんっ!』
彼の名を呼ぶ暇もなく、その唇を塞がれる。
まるで獣のように噛みついて、貪るような、激しい口付け。
『ふ、ん……っぁ』
(あ……息が……っ)
できない。
誉は必死に今朝の‘練習’の感覚を思い出していた。
今朝の口付けとは全く違う……
優しさなんか微塵も感じない。
執拗に舌が押し入れられて絡まって、唇で唇をはんで、ついていけない誉の歯が夜光の歯と当たる。
カチ……っ
『あ、やこ……っさま……も、……ゃっ』
脳髄が痺れる。
体の重心を保っていた膝をガクガクと震わす誉を、夜光は玄関の壁に押し付けた。
唇が離れると、両手首を強く掴まれる。
『ぃっ……』
「俺は独占欲が強い男だ。俺のものになったのなら、それ相応の態度を見せろ……他の男に触れるな、触れさせるな……!」
熱い吐息混じりに、耳の底に響く低い声。
「嫁ぐなら誰でも良いと言ったな……つまりお前は、俺‘で’良いと思ってる」
『……』
誉は否定の言葉を返せない。
「俺にはそれが一番気に食わねぇ……だから」
ぐっと顎を掴まれる。
誉を貫く赤い瞳の裏では、狂気に近いほどの感情が混じりあっているということを、誰も知らない。
「誉がむせび泣いて俺‘が’良いと言うまで、お前を変えてやる。心も体も、俺無しでは生きていけなくしてやる……」