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藍城家の日常
第1章 私の旦那様
「……」

夜光は黙ったままだ。

『夜光様……』

誉の頬に張り付いた髪が、夜光の指によって耳にかけられる。

もう片方も、耳にかける。

誉は瑞々しい桜桃色をした唇を開いて、舌を少し出した。


『んぁ』


彼が誉の髪を耳にかけるのは、“おしゃぶり”の合図だ。

指が二本、口の中に侵入して、何かの生き物のように動きながら這い回る。


『はむ……ぁぶ、ん……』

くちゅ、

こうやって、誉の唇、舌、口内の柔らかさを、まず夜光の指が確かめるのだ。

指の腹が擦れて気持ちが良いので、誉は“おしゃぶり”のこの流れを気に入っている。


(欲しい……お口が寂しいのです。早く、お口の中を夜光様のものでいっぱいにして欲しい……っ)


ちゅぷ……っ
誉の気持ちを見破ったように、指が引き抜かれる。

唾液の糸が伸びた。


(早く、早く、早く)


舌をつき出して、彼を見上げる。
じゅわじゅわとよだれが出てくるのが分かる。


(まるで餌を待つ犬みたい……)


誉は思った。





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