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§ 龍王の巫女姫 §
第10章 春節の夜
「彼処で餃子を売っているな。春節を祝うには欠かせぬものだ」
彼女の警戒とは裏腹に、炎嗣は悠々と歩を進め、立ち並ぶ店を眺めている。
彼が顎でさすほうには、酒楼や漬物屋にはさまれた場所で、店先の蒸し器から白い湯気が立ちのぼっていた。
「食すか?」
「いりません」
「…ふん、相変わらず愛想のない女だ」
炎嗣は水鈴の手を捕まえたまま店に近付く。
「俺は、食べるがな」
店の者に炎嗣が声をかけると、湯気の奥の男は次々に蓋を開けて自慢の餃子を勧めてきた。
侍衛たちが数歩離れたところから二人を見守っているのだが、店主の男はまさか目の前の客が李国の王だとは夢にも思っていないだろう。
しかし、高貴な身分であることは直感的にわかるようだ。
それは炎嗣への言葉遣いと態度に表れている。