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§ 龍王の巫女姫 §
第3章 永久( トワ )の別れ唄
半日の刻が過ぎるまで彼女はひとりだ。
村長に渡された書物を読み…書かれた言葉を反芻する。
裏の森に薬草を採りに出掛け
清水を汲みに湖に足を運ぶ。
それが過ぎれば、外の気温が上がるに合わせて村の人たちが御堂をおとずれるのだった。
「巫女様、今日は相談事があって…」
彼等の目的は各々だ。
怪我をした者が来れば、湿布と薬草で手当てする。
具合が悪ければ、薬を煎じて介抱する。
手を握っていてほしいと言われれば、黙ってその手を握り続ける──。
これが巫女の仕事なのか…それは彼女にはわからなかった。
何故なら自分しか《巫女》を知らないから。
他の巫女を知らないから、疑問を持つことすら彼女にはできない。
「今日もありがとう…姫様」
「この干した柿、美味しいから食べとくれ」
「また明日来るからな水鈴様!」
しかし本当の巫女の姿なんてたいして重要な事ではない。
“ だって、わたしが巫女でいることでみんな嬉しそうで…笑顔で帰っていくのですもの… ”
それが彼女の幸せである。
この村には奇妙なことに《子供がいない》。
最年少である彼女のもとには、まるで自分の娘や孫の顔を見るためだけに来るような村人も沢山いるのだった。
村人はたったの五十人足らず。
此処でこうして待っていれば、数日でその全員と顔を合わせることも簡単だった。