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§ 龍王の巫女姫 §
第18章 貴方に届けたい
横に長く並んだ盛り土。
何処に誰が入っているのかはもうわからない。
そのひとつひとつに彼女は祈りを捧げた。
「──…」
墓の手前に白い花が添えられている。
まだ桜も咲かぬこの季節に、いったい誰が、何処から見つけてきたのだろうか。
“ きっと花仙ね… ”
水鈴はそう直感した。
────
それから二人は、峭椋村をさらに南に進んだ。
森に入って獣道を通る。
今度は水鈴が炎嗣を先導していた。
──ザッ
「着きました」
森が急にひらけて、そこには古びた御堂と、巨大な御神木が見えた。──彼女のかつての家だ。
「炎嗣様も…中に入ってください」
御堂の入り口には下駄が脱ぎ捨ててある。
水鈴が中に入ると…
敷きっぱなしの布団がある。
“ ここはあの夜のままなんだ… ”
不思議な唄にうなされて起きた彼女は、花仙を探して御堂を飛び出した。
そっくりそのままの姿がここには残されていた。
「あ…これも…」
家具もなにもない御堂の隅から、書物の横にある楽器を水鈴は手に取った。
懐かしい。
それは二胡( ニコ )という楽器である。