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§ 龍王の巫女姫 §
第20章 史書から消えた物語
「昨日、報告があったのでは?」
「…ああ…都で見つかったという…。ちょうど呼び寄せようと思っていた所だ」
穏和な性格が伺えるゆったりとした口調。
“ こいつが李王──? ”
彼こそが現、李王、光丞帝( コウジョウテイ )。
二十六という若さでありながら重い病を患い、その顔は誰が見ようとも青白く覇気がない。
「その子供と話したい、ここへ──」
「…っ…断る」
正直、王の事などほとんど知らなかった少年にとって想像と異なる人物像だ。
でも──だからと言って、憎悪が和らぐわけではない。
「あんたと話すことなんて何もない…っ」
「──…ふ、随分な嫌われようだ」
「王族を嫌わないやつなんてこの国にいるのかよ」
随分な嫌われよう…随分な暴言だ。
控えている宦官達は頭を下げたまま互いに目配せをしている。
この場で捕らえられたとしても、その可能性があるとしても、少年は光丞帝を憎しみの目で睨み付けた。
戦争に食料不足……民がどれほど差し迫った状況で苦しんでいるのか、この王は知っているのか。
国の頂点に立ち、皆を統率すべき王がこのような弱々しい男だとは…お笑いだ。
「あんたの弱さのせいで…どれだけの人間が死んでいると思ってる」
「……返す言葉もない」
「…ンだと…!?」
「不甲斐ない身の上だ。そのために…私にはお前達が必要なのだ」
少年と…その隣で苦笑いしている蒼慶とに交互に目をやって、光丞帝はか細く声を発した。