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§ 龍王の巫女姫 §
第21章 黒髪の兄弟は束の間に
前室を通り抜けて
こじんまりとした書斎に入った。
座椅子の前に、紫檀の座卓。
卓上には玉( ギョク )でできた美しい文具があり
花窓の下の木箱には、書跡がつまっている。
趣ある理想的な書斎だが
炎嗣にとっては牢獄のようであった。
“ 息がつまる… ”
こんな所でよく生きていられる。
炎嗣は逃げ出そうかと思ったが、蒼慶の表情がいつになく真剣なので気が引けた。
「──…預言の話は何度も聞かされただろう?」
蒼慶は座椅子に腰を下ろし、炎嗣も向かいに座るように促した。
「…耳にたこができるほどな」
しかし炎嗣はそれに応じず、立ったまま彼を見下ろす。
「なら理解できる筈だよ。今やるべき事…学ぶべき事が」
「…ふん、どうだか」
──そうだ、百年以上前の怪しげな預言。
あんなものを本気で頼りにしている皇帝もお笑いだが、勝手に期待されるこちらとしては たまったものじゃない。
龍の子?
国を救う?
そんな幻想にすがり付く暇があるなら、もっと現実を見るべきだ。