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§ 龍王の巫女姫 §
第21章 黒髪の兄弟は束の間に
「文字を書ければ心強い武器になる。文字が読めれば頼れる楯( タテ )となる…。君が今まで、何を武器に生きていたかは聞かないけれどね」
「……」
孤児院を脱け出してからの五年間
まっとうな生き方などしていない炎嗣にとって、これが武器だと胸を張れる物なんて無い。
「試しに書いてみれば?」
「…ちっ、面倒くせぇな…」
かなり嫌々だが、炎嗣は筆を受け取った。
腰を下ろし、自分の名だと告げられたその字を真似て手を動かした。
蒼慶の見本字の右下に…
「~~~っ」
出来上がったものは、それは酷い完成度。
「…ふふ」
「笑うな!俺は初めて書いたんだ、いきなりこんな事やらされて本気になれるわけないだろ!」
「当然さ、初めから完璧なら僕が教えることなんて何もない」
蒼慶は紙面上の二つの《炎嗣》を見比べる。
「まぁ、うん、やっぱりね…。自分の名前も書けない弟っていうのは、兄として恥ずかしいな」
「…!? …何のことだ?」