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§ 龍王の巫女姫 §
第21章 黒髪の兄弟は束の間に
王宮から出たのは久しぶりだった。
朱雀大路には多くの食べ物屋が並んで、いつ見ても活気に溢れている。
ここだけを見れば国の貧窮ぶりを感じない。
そんな通りを歩く、身分を隠した二人──
「──炎嗣、君に提案があるんだけど」
「何だよ」
「少しの間だけれど、桃源郷( トウゲンキョウ )に行ってこないかい?」
「…桃源郷に…、俺、ひとりでか?」
桃源郷といえば、そこの離宮に何度か行った。
宮中から離れることで面倒なしきたりから逃れられる。だから炎嗣は桃源郷での生活を好んでいる。
だが行くときは、蒼慶と一緒がほとんどだ。
「…なんで今なんだよ」
「今だからさ。これから僕たちは王宮の外に気軽に出ることができなくなる。もし…父上の身に何かあったとしたら……」
「……」
「僕たちのどちらかが、次期李王だ」
「…ふざけんな」
ちょうど果物屋の前で、炎嗣が立ち止まる。