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§ 龍王の巫女姫 §
第22章 蛇の落とし子
「一応、言っておくけど…、皇太子を死罪にはできない…って、知ってる?」
「勿論ですとも」
「だったらどうする気だい?」
「…こうです」
右丞相は、後ろに控えていた衛兵に目配せをした。
合図を受けた衛兵は鍵を開けて牢の中に入ると、持っていた松明の火を床に敷かれた藁に移した。
パチ パチ
火の粉が弾けて不気味に音を出す──。
「馬油もきちんと撒いてさし上げろ」
目を閉じている蒼慶には、さも愉しそうに指示を出す右丞相の声と、炎の音だけが届いた。
「随分と落ち着いておられるな、さすが蒼慶様だ。……くく、そうやって目を閉じて、現実逃避ですかな?」
「……」
「ああ…嘆かわしいことよ。我が李国の大切な皇太子が…火事に巻き込まれ焼け死ぬとは。明日の朝には宮中はおろか、国中に涙の大河が流れるでしょうね」
「…それは、ないでしょう」
「……ほぉ?」
「──…」
人のひとりが死んだところで
誰が意に止めようか。
もし、……涙を流す者がいるとすれば
それは……
あいつだけだ。