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§ 龍王の巫女姫 §
第23章 愛するあなた達へ
「歴史ある王宮の中において、この監房( カンボウ )は最も新しい建物だ。…何故かを知っているか?」
築山( ツキヤマ )に挟まれた場所で、炎嗣が花仙に問いかけた。
「──…申し訳ない。都から離れた所にいたせいで宮中の事には疎いのです」
にわかに一陣の風が吹き、まだ花のない牡丹の、葉の上に乗った朝露が震えた。
小さな雫が日の光を弾いて煌めく様は、まるで水晶のようである。
「以前の監房が八年前の火事によって全焼したからだ」
「……」
「牢の中に居たある男の身体も、その監房とともに跡形もなく消し去られた」
「…牢の中ということは、罪人でしょうか」
「罪人……、いや、罪人ではないな」
「……どういう意味です?」
炎嗣の話に合わせて聞き返した花仙。
しかしその声は、もうこれ以上喋ってくれるなと懇願しているようにも思える。
「王の命( メイ )によって、その男は元より存在しなかったとされたからだ。罪人にもなれない」
「…存在しない男がこの場所で焼け死んだ──とは…、難しい話で御座います。私の頭ではどうにも理解しがたい」
「そうか?簡単な話だろう」