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§ 龍王の巫女姫 §
第5章 炎の李王
「誰もいないのですか…?」
どこからも返事はこない。部屋は静寂に包まれていた。
水鈴は不安な面持ちで寝台から降りた。
寝台の下には沓( クツ )が用意されていたのだが、今までに下駄しか履いてこなかった彼女は足を通す気になれない。
剥き出しの素足が冷たい床に触れる。
水鈴は部屋を見渡すにつれ混乱する思考の中、今の状況を模索しようとした。
こじんまりとしたその部屋には、紫檀( シダン )の円卓や座椅子に加えて、飾り棚や牡丹が描かれた黒檀のついたて…
陶磁器の壺や、趣ある絵まで飾られている。
──けれどそれらの用途も価値も彼女は知らない。
堂の中で暮らしていた水鈴にとってこの空間は異質なものでしかなかった。
“ ここから出なければ… ”
慣れぬ空間で本能的にそう考える。
ついたての奥に戸を見つけ、そこに駆け寄って押してみた。
「…っ…開かない」
しかし扉は外から錠を下ろされていた。
押しても引いてもびくともしない。水鈴は諦め、戸に背をつけて部屋に向き直った。