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秘蜜に濡れて
第2章 夢見たいつか。
大規模なヴォーカルオーディションの帰りだった。
満開を過ぎた桜を雨が散らす夜だった。
毎回最終に残るもののあと一歩が届かないまま時間だけが過ぎていく。
もう止めてしまおうか。
夢を見るのも疲れてきた。
叶わないなら…でも、捨て切れない。
いつもランニングする公園を横切るために足を踏み入れた。
桜の下にたつ青白い人影に一瞬、恐怖を感じる。
が、ちゃんと足があった。
左手にビニール傘を差して、白っぽく見えたのはパジャマで、右手には…
白杖を持っていた。
「こんばんは」
「こんばんは」
顔だけをこちらに向けた彼女は目を閉じていた。
「桜が満開だと聞いたので見に来たんです、あなたもですか?」
「俺は…通り掛っただけ」
目も見えないのに桜を見に来た?
「雨が降ると桜の香りが立つんです」
考えを見透かした様に彼女は言った。
「今何時ですか?」
「7時40分」
「帰らないと怒られちゃうな」
「帰るって何処へ?」
彼女が指差した方には大学病院が在った。
「明日…角膜移植の手術があって…怖くなって逃げ出して来ちゃったんです、逃げてもしょうがないのに」
そう、逃げてもしょうがない。
「あのさ、歌…聴いてくれないか?」
満開を過ぎた桜を雨が散らす夜だった。
毎回最終に残るもののあと一歩が届かないまま時間だけが過ぎていく。
もう止めてしまおうか。
夢を見るのも疲れてきた。
叶わないなら…でも、捨て切れない。
いつもランニングする公園を横切るために足を踏み入れた。
桜の下にたつ青白い人影に一瞬、恐怖を感じる。
が、ちゃんと足があった。
左手にビニール傘を差して、白っぽく見えたのはパジャマで、右手には…
白杖を持っていた。
「こんばんは」
「こんばんは」
顔だけをこちらに向けた彼女は目を閉じていた。
「桜が満開だと聞いたので見に来たんです、あなたもですか?」
「俺は…通り掛っただけ」
目も見えないのに桜を見に来た?
「雨が降ると桜の香りが立つんです」
考えを見透かした様に彼女は言った。
「今何時ですか?」
「7時40分」
「帰らないと怒られちゃうな」
「帰るって何処へ?」
彼女が指差した方には大学病院が在った。
「明日…角膜移植の手術があって…怖くなって逃げ出して来ちゃったんです、逃げてもしょうがないのに」
そう、逃げてもしょうがない。
「あのさ、歌…聴いてくれないか?」