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秘蜜に濡れて
第2章 夢見たいつか。
屋根のある石造りの建物へと彼女の手を取って移動し、作り付けのベンチに座らせた。

人前で歌うのは最後かもしれない。

彼女はただ聞き入ってくれた。

「綺麗…素敵な声ですね、とっても心に響いてきました」

「上手いだけなら…五万といるけどね」

愚痴が漏れる。

「あなたがどんな人なのか私には見えます、明日への勇気をくれる歌を歌える人です」

「勇気を?」

「私に歌ってくれた様に、沢山の人に届く歌を歌ってください」

言い切った彼女はゆっくりと立ち上がった。

「もっと聴きたいけど…本当に戻らないと、明日頑張れる気がします、ありがとうございました」

白杖の音が規則正しく響く。

「頑張れ!!」

「頑張って!!」

ふふっと笑った彼女の横顔を忘れるはずもない。

その後、そのオーディションに来ていた別のプロデューサーの目に止まりデビューが決まった。



その彼女が昨夜目の前に現れた。

しっかりと目を開いて、視線を交わせる様になって。
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