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秘蜜に濡れて
第19章 想傷の真下
「あいり、撥春はきっと全てを知ったとしても嫌いになったりしない、あの人はそういう人なの」

事情が事情だけにそれは当て嵌まるのだろうか。

「あの人は…簡単に人を見放したりしない、それが…誰であってもだからタチが悪いんだけど」

クスッと笑う律。

「ねぇこの世には死ぬ程辛いことなんていっぱいあると思うの、でもね、絶対救われるはずなの!今のあいりにとって撥春がそれなんだよ、だから…絶対、撥春の手を離しちゃだめなんだよ!」

律は立ち上がると、あいりを抱き締めた。

「誰も悪くない…だから…あいりは撥春の処へ行くべきなの」

あいりよりも律が震えていた。

「律さん…私…自分が…汚れたみたいで…撥春さんまで…汚したくなくて…」

「あいり、他の男に触られたら汚れたっていうなら、私は汚い?私…好きでもない人に慰められたこと、あるよ?」

さらりと告白されたそれにあいりは言葉を失った。

「ただ淋しくて、誰でもいいから側にいて欲しくて…愛があるのとないのの違い、あいりならわかるでしょ?」

脳裏を過る記憶の中に確かにそれは在った。

「あいり、傷は…晒さなきゃ誰も気付けないのよ?ずっと治さないまま放置したら、それはきっと他の誰かも苦しめてしまうわ」

律の言葉は深く浸み込んでいった。


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