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秘蜜に濡れて
第21章 儚いダイヤモンド
返事の代わりにあいりの瞳に涙が光る。

「…俺の気持ち、受け取ってくれますか?」

頷くだけで精一杯のあいり。

撥春は箱から指輪を取り出し、あいりの右手薬指に嵌めるとその手の甲にキスをした。

笑顔のあいりに、撥春もまた笑顔を向けた。

「…え…?」

「何?」

あいりが右手の薬指の先を摘んで逆さまにすると、指輪はするりと落ちてきた。

「え…サイズ、大きかった?」

顔を見合わせると…只々笑うしかなかった。


「行ってきます」

「いってらっしゃい」

キスを交わして…離れがたく時間だけが無情に過ぎていく。

「あとで、ね?」

「そんなこと言って楽屋にも来ないでしょ?」

「一ファンとして行くのに、可笑しいでしょ?」

「…帰ってきたら…」

「ちゃんとライブの打ち上げに参加して、皆さんを労って来てくださいね、私は明日会社があるので、家に帰ります」

「えー?」

「ゆっくり身体休めてくださいね」

「昨夜は休まらなかったからね」

そう耳元で揶揄うと撥春は出掛けていった。

あいりは、チケットと指輪を交互に、いつまでも眺めていた。


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