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秘蜜に濡れて
第22章 Not enough
「お願いというのは…」

ゴクリと両親の喉が不自然に上下する。

「あいりさんとの同棲を認めて頂きにきました」

「ど、うせい?」

覚悟していた言葉ではない事に二人は目を丸くして聞き返した。

「結婚を視野に入れての、です」

「視野に入れるとは?その…しないかもしれないのかしら?」

「…僕の意志は固まっていますが、僕だけの意志で何もかも決めていいという立場にいません、彼女を大事に思っていますが、それと同じくらい仕事が、仲間が大事なんです」

戸惑いと沈黙、テーブルの下でぎゅっと拳を握る撥春の横顔をあいりはそっと見つめた。

「あいりへの気持ちが変わらないなどという…」

「変わりません」

断言する撥春に、両親は息を呑む。

それ程までに確固たる強い口調だった。

「彼女が居なければ、僕の今はありませんでした、そしてこれからも彼女の居ない世界は考えられません」

きっぱりと言い放つ撥春に、あいりは胸を締め付けられる。

「僕の仕事は…時に一人歩きをし、誤解を生み周囲を巻き込んでしまいます…彼女を泣かせてしまう事もあると思います、それでも彼女が必要なんです」

母親は撥春の決意を汲み取っていた。
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