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秘蜜に濡れて
第22章 Not enough
ちらりと視線を遣ると律は真っ直ぐ竜を見据えていた。

「催淫剤、両方飲まされてたわ、効果はどうしたって2日は続いた筈よ、竜…貴方があいりをす…」

「飲んで出せば終わりだよ、何も無かった」

竜は掛かって来た電話に出る。

「遅い、もう寝る」

竜の砕けた口調に律は溜息をついてグラスを手にとった。

「今から行くから」

竜は電話を切ると立ち上がった。

「律」

「ん?」

「俺だけが…忘れないでいるから、お前は忘れろ、何もなかった」

「竜はそれで苦しくないの?」

「苦しい?まさか、嬉しいよ、嬉しい…きっと」

「馬鹿ね」

律は歪んだ笑みを横顔に浮かべた竜を見送った。

タクシーに乗り込むと流れる景色をただ見つめていた。

''りゅう、すき…''

いつだって思い出せる。

自分だけが知っているあいりの姿、声、笑顔。

薬のせいでもいい。

あの瞳に映っていたのは確かに自分だけ。

あの身体の内に呑み込まれたのも自分だけ。

そして今は。

人気の少なくなった終電間際の駅前。

竜は辺りを見回し、その姿を見つけた。

ニット帽に飾られた一本のマーガレットが目印。

「静?」

次はきっと後には退かない。
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