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秘蜜に濡れて
第5章 purple line
見つめられる撥春の視線に耐えられなくなって、俯いてしまう。

ちらりと腕時計を確認すると、12時半を過ぎていた。

「帰りたい?」

意地悪な質問にあいりが顔を上げると、目の前に撥春が居た。

「帰さないけどね」

髪を一筋取って口付ける、その眼はあいりを捉えたままだ。

徐々に撥春の顔が近づいてくる。

「…っ…シャ、ワーを…」

思い返せばあいりは普通に仕事をして来た帰りだ。

「必要ない」

「いさ…」

唇が食まれる。

「名前で呼んで欲しいな」

息を呑むあいり。

出逢って付き合う事になって、今日で3回目。

あの伊坂 撥春が彼氏という現実が未だに信じられない。

彼氏を名前で呼ぶなんて当たり前で、喜ばしい事なのだが、気遅れてしまう。

ふぅっと小さく息を吐くと、あいりの手を取ってその部屋のドアを開けた。

撥春の背後から覗いた其処にはベッドが見えた。

繋いだ手に思わず力が入る。

「遊びじゃないから、信じて欲しいって言葉しか言えないけど、こんなに好きになったのはあいりだけだから」


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