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秘蜜に濡れて
第6章 絡まる糸
ぎゅうぎゅうのエレベーターに乗り込むあいり。

「こっち」

ぐいっと隅に追いやってくれたのは、あいりが担当するもう一人の営業マン・黒沢 雪夜だった。

圭吾がやんちゃな弟なら、雪夜はしっかりした兄だ。

どちらも仕事は出来るが、スマートなのは雪夜の方だった。

物腰の柔らかさは社内一とも言われているし、的確な判断で上からの人望も厚い。

「今日、来る道変えたのか?」

「え?」

「どうせ寝坊してタクシー使ったんだろ?」

どうやら撥春の事はバレていないらしい。

あいりは曖昧に笑って席へ着いた。

「これ、みんなで食べて」

雪夜はデスクの上にあった紙袋を手渡した。

「昨日取引先で貰ったんだ、限定らしいよ?」

中を覗くと高級そうな箱が入っていた。

「ご馳走さまです」

「その代わり、来週の出張同行してね」

「はい」

へらへらと笑顔を振り撒きながら圭吾が入ってきた。

「N社が動いてるらしいな」

表情とは裏腹の真面目な話題に上司も加わって、ミーティングルームへ移動した。
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