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秘蜜に濡れて
第7章 夢から醒めたら
あいりははっと撥春を見つめる。

名前も聞かなかった。

ほんの10分程の交わりだけ、あいりにはその人が撥春とは確認する術もない。

声だけだ。

あのエレベーターの前で撥春の声を聞いた時、胸が締め付けられた理由が今解った。

「また逢えるなんて思ってなかった、感謝の言葉を言う前に告白してごめんね」

ふるふると首を振ってあいりは顔を両手で覆った。

「わ、たしこそ…あの歌があったから…頑張ってこれました…」

溢れる涙で撥春がぼやけていく。

「その…言い訳だけど、色んな女の子と遊んできた、その日、その場限りとかも…あいりにまた会えるってわかってたら…戻って殴ってやりたい」

あいりは何故だか後悔する撥春の横顔にくすりと笑ってしまう。

「あいり、俺、反省してるんだけど?」

「はい、なんだか可愛くて」

「…マジで後悔してるのに、もういい、食べよう」

拗ねた撥春、視線が交差すると微笑んで再びフォークを取る。

「角膜の提供者ってどんな人?」

「ドナーの情報は殆ど貰えないんです、30代の女性で事故に遭った方だとか」

「そっか」



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