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鍵の音
第1章 希望は鳴る
龍はカラビナから鍵をひとつ取り外すと、私に差し出した。
受け取ろうとして、部屋に吸いかけの煙草を落としてきたことに気が付いた。
「オヤジがろくでなしでも、先輩があんなんでも、
リエちゃんまでダメになることは絶対にないんだよ。
まともでない環境で育ったからって、自分までまともじゃなくなったら、絶対ダメだ。
思ったんだ、俺。周りのせいにして、逃げて、
なんも努力せずに生きてきて。もっと勉強すればよかったって。
勉強して知識をつけたら、あの時ああできたのにとか、
こう出来たのにって、後悔することばっかなんだ」
手のひらに、うちと同じ形状の、シルバーの鍵が置かれる。
「勉強したい時は、うちに来たらいいよ。俺ができることは、それだけ。偉そうなこと言って、俺はまだ、先輩の言いなりだし、なんも変われてない。けど、変わりたいって、思ってる」
龍がはじめて、陰気な顔にほんの少しだけ笑みを浮かべたような気がした。