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ジェミニの檻
第9章 distanse
再び来た電車に乗り込む。

二人の間は微妙に開いていた。

メガネの向こうの視線はずっと外を見つめたまま。

''由岐の代わり、だろ?''

''俺を好きとか言うなよ?''

…志貴の言葉は、見たくないものを見せつけられた様に的確で、逃れられない。

由岐の代わり…?

六花は頭を振ってそれを掻き消す。

心と躰は別物だなんて。

じゃあ志貴は?

志貴はどういうつもりで、自分と躰を重ねていたのだろう。

「…志貴…」

視線が混じり合うだけで、安堵する。

「志貴はどうして…」

そこまで口にして、その先を紡げなくなる。

もし…ただの性欲の解消だと言われたら?

そこに好きだからなんて感情は欠片もないと言われたら?

あんなに触れ合ったのに、あんなに欲しいと浅ましく強請ったのに。

確かなものが一つも無いことはこんなに頼りないものだったのか。

何も聞けない。

志貴は自分の駅に着くとお別れも言わずに降りていった。
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