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Black velvet
第3章 最初に 痛んだものは。
カップを手に 向かい合わせに座った。

窓際、その向こうを通る通行人が
彼に気がつくと
一瞬、見惚れるのが分かる。


「びっくりした?」

「まあ、そうだな」


昼間に見ても、 その肌は透けるような
けれど 乳を溶かしたような…


「うちに つれてってくれるなんて
信用されちゃったかな」


悪戯っぽくわらう唇は、
印象としては薄めなのだが
質感が 柔らかそうで啜りたくなる。


「お前こそ、不用心なんだな。
昨日会ったばかりの 男の部屋に」


ふふ、と 声を立てずに笑い
カズが 席を立った。


「行こう。 いつもはもっと
いいコーヒーを飲んでるんでしょ。
美味しくなさそうな顔してる」







助手席で しばらくiPhoneをいじった後
カズは ぽつりと言葉を落とした。


「痛いことは しないって、約束して」


「…約束するけど」


「ありがと」


「そんなにすぐ信じるのか?
何度も言うが、 不用心過ぎだぞ」


俺の言えたことではないんだろうが
口調が 叱り気味になった。




横顔を 背けて、表情を見せずに答える声は
小さいのに ひとつも残さず耳に届いた。


「あんなふうに、おれを見た人は
初めてだったから。

ウィスキー もらっていいか訊いたとき、
心配そうな顔して 見てた」


「未成年だって ふれこみだったろ。
それに、見るからに酒に弱そうな顔して」



血の薄そうな、白い顔が
ごく薄いソーダ割りに 淡く染まるのは
綺麗だったが。


綺麗すぎて、柄にもなく 胸が痛んだ。




























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