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人間の交尾をしよう
第1章 それは記憶の中の話
「かわいそうになぁ。もしリズが人間やったら、どうなってたことか」

 キョウダイで子供なんて。ねぇ?不憫やけど。
 デキて生まれちゃったもんは、仕方ないもんねぇ?
 ほんま助かるわぁ。2匹しか生まれへんかったとはいえ、うちではリズで精一杯で・・・ほらうちは誰も面倒見てくれへんから。お父さんは仕事の帰りが遅いし、Mは面倒見悪くてろくに世話せぇへんし。Tも家出てっちゃったしねぇ。あ!そうそう、Tが帰ってきてるんよ。そうそう、Rくんと一緒で、カレンダー通りの連休やったから。

「そうやな・・・。お父さんとお母さんにめちゃくちゃ怒られると思う」

 ははっ。
 お母さんの声が途切れた時、無精髭が笑った。
 笑いながら、口に挟んだ煙草を大きな右手に移す。
 そしてその右手で、私の肩を抱く。
 
「そんなんで済むと思うか?俺はこう思うけどなぁ・・・。お父さんにはモノ凄く怒られてめちゃくちゃどつかれたうえで、お母さんが泣いてる目の前で家を追い出されてな。そんで当然学校にも行けんと、低学歴で金もなくて、そのせいで一生よそ様に顔向けでけへんような、それこそ・・・ほら。ホテルの、いかがわしいほうのな。そんなところのベッドの下とか、風呂とか、便所とか。そんなとこを掃除する仕事しかでけへんような・・・それか、こんなことを俺みたいなヤツにせっまいベッドしかないような部屋でし続けて金をもらうような、惨めな人生になると思うわ。そんなして子供育てて乳やるのが精一杯っていう、つまらん人生にな」

 靄のような煙は、吐き出されてすぐ天井に消えた。

「じゃあ、わたしはどうなんの?」

 語尾は唇の中に消えた。
 ペスとリズが本能で結ばれたなら、わたしたちの行為はなんになるの?
 ベッドの脇に置かれている荷造りを終えた大きい鞄を見つめる。
 
「わたしはこれから、どうなんの?」

 さっきまで読んでいた漫画本の中のような、現実。
 リアルと仮想が交差した、ペスとリズのような、それでいて、彼らとは違う、現実。

「さぁ?どうなるやろなぁ?」

 
 
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