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負い目
第1章  
「あの人、知ってる」



 打ち水で濡れたアスファルト。と、その匂い。
 わたしをコンビニに連れ出したリョンちゃんは、ハーパンのポケットに突っ込んでたジャリ銭をかき集めてガリガリくんを買ってくれた。



「あれ、テッちゃん。叔母ちゃんが今の俺くらい、コーコーセイのときにデキた子供のはずやで。出産費用とかウチのおかんが金出したって言ってた。そうや、テッちゃん。懐かしいなぁ。叔母ちゃんがおまえのオヤジと別れるってなったときにはもうおらんかったからなぁ」



 蜃気楼の揺れる人気のない住宅地を団地に向けて歩く。
 リョンちゃんと繋いだ手は汗でびっしょり濡れている。
 あいた手に持った着色料の効いたブルーの氷を奥歯で噛みとる。
 リョンちゃんも同じように体に悪い氷を口の中で転がしている。
 デイリーヤマザキの愛想の良いおばさん店員は、自分らキョウダイ?仲ええねーって、手を繋いだままレジの前に立ったわたしたちを見て笑ってた。
 あのおばさんのアンパンマンみたいな艶めいた頬を思い出しながら、リョンちゃんの肩の上に存在する横顔を見上げる。


「テッちゃん生きててんなぁ。びっくりしたわ。死んだと思ってた。じいちゃんに似てたなー。むかし酔っ払ったじいちゃんにしばかれたこと思い出したわ。あー、憂鬱。気分転換にヌキたいな。今から俺んち来ん?」


 立ち止まると蝉の声が四方から聞こえる。
 並木道にびっしり蝉の大群。
 人と同じで蝉も都会を好むのだろうか、犇めき合って鳴いている。



「せーっかく今週の土曜はおまえしかおらん言うから遊びに来たのにやで。叔母ちゃんがおったうえに、テッちゃんまで・・・。ハァーッ!俺、今日おまえに会える思って3日もオナニー我慢してんで?部活もガンバッタシサー」


 ご褒美ちょーだいや。
 蝉の声の中にリョンちゃんの、なんならあっこの、ほら、あの、公園のトイレでもええわ。もう我慢でけへんて。なぁ、やらしてや。って声が鳴っている。



「・・・あの人、なんでお母さんに土下座してたんやろう?」



 口では言えないNOを表現するように身を捩ったわたしに対する返答は、リョンちゃんの冷たい舌が私の口の中から出て行ったあとだった。



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