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負い目
第1章  
 待っときや。氷割ったら冷やしたるから。
 心配せんでも、夏休みやろ。ガッコ始まる頃には痣は消えるよ。
 ケイケン済みやから分かる。



 氷の砕ける音が再び室内を支配する。
 その音の中でテッちゃんの声が続く。



「なんで黙ってんの?」



 声にまでつくり笑顔が貼り付いている。



「あぁ、そっか」




 キイタ?キイタよな。
 そう。俺、ケイムショ入ってた。
 人殺した。
 おまえくらいの子を殺した。
 俺のことが怖いんやな。
 そら、怖いよな。
 でも。  



「妹にまでそんな目で見られたら、悲しいなぁ」



 破壊音が、今度こそ、ピタリと止まった。
 静寂の代わりに花模様の擦りガラスの向こうから、蝉の声がわたしを支配しようと迫ってきた。



「今まで会ったこともなかった、つうか存在すら知らんかったとはいえ、キョウダイやろ?せっかくおんなじハハオヤのモトに生まれてんから、仲良うしよや」



 期限付きの命を激しく燃やす声が。



「心配せんでも、無抵抗の妹をブッ飛ばして服剥ぎ取って、その、なんの凹凸もないようなカラダにムシャブリつくほど、俺の頭はおかしないよ」



 ミーンミーンって、残り少ない命の声が。



「勘違いせんとってや。俺は、なんもおかしないよ」




 ゴロゴロと空が鳴って、夕立がアスファルトを濡らす前兆のような、テッちゃんの声が。




「おかしいのは、俺を呼ぶおんなのほうやねんで」




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