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作品集
第12章 平成28年4月度
素晴らしいと思いました。

◆藤尾秀昭 監修 の
「一流たちの金言2」より

私が学習塾講師になって間もない頃、S君という中学3年生の生徒が入塾してきました。
無口で少し変わった子でした。授業の時にノートを出さない。
数学の問題はテキストの余白で計算する。
だから計算ミスばかりしているのです。
たまりかねた私は、ある時、彼を呼び出して言いました。「ノートはどうした」しかし、S君は黙ったままうつむいています。
次の日は必ずノートを持ってくるように約束させましたが、それでも彼はノートを持ってきませんでした。私はカチンときて思わず怒鳴りつけました。
「反抗する気やな。よし分かった。先生がノートをやるわ」
私は500枚ほどのコピー用紙の束を机にボンと投げ出しました。
するとS君は「ありがとうございます」とお礼を言うのです。
夏になると、周囲の生徒からS君に対する苦情が寄せられるようになりました。彼がいつも着ているヨレヨレのTシャツとジーパンが臭うというのです。
この時も私は彼を呼んで毎日着替えるよう言いましたが、それからも服装は相変わらずでした。
私は保護者面談の時、S君の母親にこのことを話しておかなくてはと思いました。生活態度を改めるよう
注意を促してほしいと訴え掛ける私に、母親は呟くように話を始めました。
「あの子は小学校の頃から、この塾に通ってK学院に進学するのがずっと夢だったんです。でも先生、大変申し訳ないのですが、うちにはお金がありません…」S君が早くに父親を亡くし、母親が女手一つで彼を育て上げてきたことを知ったのはこの時でした。
塾に通いたいというS君をなだめ続け、生活を切り詰めながらなんとか中学三年の中途で入塾させることができたというのです。
私はしばらく頭を上げることができませんでした。
S君に申し訳なかったという悔恨の念がこみ上げてきました。そして超難関のK学院合格に向けて一緒に頑張ることを自分に誓ったのです。K学院を目指して早くから通塾していた生徒たちの中でS君の成績はビリに近い状態でしたが、この塾で勉強するのが夢だったというだけあって勉強ぶりには目を見張るものがありました。
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