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偽善者
第1章 偽善者
 わたしの偽善のせいでラッキーを傷付けてしまった良心の呵責が、あの小さい命をどうしてあげることも出来なかった自分の無力さが。
 その結果あのおじさんに飼われることになったラッキーの、あの寂しげな鼻の音と重なってからだじゅうを締め付けるように支配して。




「あぁ・・・そういう意味では、死んで当然だと思われていることに関して、負い目を感じる必要はないか。どのみち、ヒカルにとっては、俺の本心がどうだろうと、結果が覆ることもないわけで、結局はヒカルに懺悔したいんじゃなくて、良心の呵責に苦しむ自分自身を救済したいがための懺悔なんだよな。結局ヒカルは念願だった犬が手に入ったんだ。柴犬でなかっただけで。つまり、俺のことなんて、ヒカルにとってはどうだっていいことのはずなんだ」


 何度も何度もさまざまな形でしつこくわたしに手渡された名刺が、いつの間にか一字一句欠けることなく脳裏に焼き付いたあの住所が、ラッキーを腕に抱いてたおじさんの声が、ラッキーの鼻の音が、からだじゅうを、強く締め付けるように支配して。


「あぁ・・・あと、4時間よんぷん・・・。ごめん、長い話になったね。もう服を着ていいよ。そして、帰んな。悠里にとってはつまらない1日になったね。ほんとは学校に行ってドッジボールとか、理科の実験とか、したかったろうに。膝に擦り傷まで負わせて、あそこにも・・・痛い思いをさせてしまってごめん。もし学校をズル休みしたことで先生や親に怒られたら、すごく申し訳なく思うよ。でも、死にゆく隣人の遺言を聞いてくれて、嬉しかった。ほんとうにありがとう。ほんとに悠里は・・・・」



 心優しいお嬢ちゃん、ってわたしを、飼えないと分かっていてラッキーを拾ったわたしを、そしてやっぱり飼えないことに気付いてラッキーを捨てたわたしを、最初にラッキーをダンボールに入れて河川敷に捨てたどこかの誰かより惨いことをしたわたしを、あの、おじさんの声が。




「可愛くて、優しくて、あったかくて、俺の、大好きな・・・いや、大好きだった、初恋の女の子だよ」




 無言でわたしを責めるあの低い声が、心の優しいお嬢ちゃんって声がいつまでも体中に響いて消えなくて胸が締め付けられるから、苦しくてたまらなくて、どうしようもなくて辛くて、気付いたとき。
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