この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
水蜜桃の刻
第9章 その声
「うまそー!」
私の向かいに座っている本郷くんが、自分の前に置かれたお皿を見て声をあげた。
ランチを一緒に食べる約束を果たそうと、お気に入りの洋食屋に彼を連れていけば、彼が迷わず選んだのはオムライス。
「うっわ! とろっとろ……」
チキンライスの上にのせられたオムレツ。
切り開くととろりと流れ、ライスを覆い隠していく。
おお……と、それを見ている本郷くんの顔はまるで子供みたいだった。
「オムライス好き?」
その反応は見ていると何だか楽しくて、思わずそう声をかければ
「大好物!」
お皿から目を離さず、嬉しそうに笑うから、私までつられて笑ってしまった。
「よかった。このお店はオムライスが人気だから」
そう言いながら、私も自分のオムレツを割り開く。
いただきます、と声がして
「……うまっ」
その直後、そんな呟きが。
その声にちらりと彼に視線を向ける。
「鈴木さん、これマジでうまい!」
そう言いながら食べ進める本郷くん。
視線を戻し、私もスプーンですくって口にそれを運ぶ。
とろとろの卵が絡むチキンライス。
デミグラスソースの深い味。
うん、と彼に笑いかけた。
本郷くんと一緒にいるのは、楽。
わかりやすい態度、反応。
意図せずとも自然に心が緩む。