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水蜜桃の刻
第9章 その声


「うまそー!」


私の向かいに座っている本郷くんが、自分の前に置かれたお皿を見て声をあげた。

ランチを一緒に食べる約束を果たそうと、お気に入りの洋食屋に彼を連れていけば、彼が迷わず選んだのはオムライス。


「うっわ! とろっとろ……」


チキンライスの上にのせられたオムレツ。
切り開くととろりと流れ、ライスを覆い隠していく。
おお……と、それを見ている本郷くんの顔はまるで子供みたいだった。


「オムライス好き?」


その反応は見ていると何だか楽しくて、思わずそう声をかければ


「大好物!」


お皿から目を離さず、嬉しそうに笑うから、私までつられて笑ってしまった。


「よかった。このお店はオムライスが人気だから」


そう言いながら、私も自分のオムレツを割り開く。
いただきます、と声がして


「……うまっ」


その直後、そんな呟きが。
その声にちらりと彼に視線を向ける。


「鈴木さん、これマジでうまい!」


そう言いながら食べ進める本郷くん。
視線を戻し、私もスプーンですくって口にそれを運ぶ。
とろとろの卵が絡むチキンライス。
デミグラスソースの深い味。

うん、と彼に笑いかけた。


本郷くんと一緒にいるのは、楽。
わかりやすい態度、反応。
意図せずとも自然に心が緩む。


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