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水蜜桃の刻
第9章 その声
──そのとき、突然鳴り出した着信音。
もしかして? そう思った私はスプーンをお皿に戻し、慌ててバッグの中を探った。
取り出したスマホには思ったとおり『先生』の表示。
……きた。
どくん、と心臓が跳ねる。
「ちょっとごめんね……!」
画面から目を離さずにそう言葉を発し、彼の返事も待たずにすぐに通話をタップした。
ごくん、と唾を飲み込む。
「……はい」
『あ、片桐と申しますが……』
先生のその、耳に響く落ち着いた声────。
かかってきた。
どうしよう。
先生が、かけてきてくれた。
口元が、自然に緩む。
『えっと……透子ちゃん、だよね?』
「あ! うん、そう!」
確認され、黙っていた自分に気づき慌てて答える。
『昨日ごめんね。飲み会で着信に気づくの遅れて』
「あ……ううん、大丈夫!」
そう返しながらも、何だろう──先生の声が頭の中に纏わりつくかのような感覚に私は陥っていた。
そう、例えるなら、どこかとろりとした甘さを引きずるような。
『たぶん透子ちゃんからだろうと思ったんだけど、もし違う人だったら夜中とか朝の電話は失礼かなと思ったから』
そんな心地よさの中、電話がかかってこなかったわけを知り、途端に私の心は安堵感でいっぱいになった。
確かに、先生にしてみればそうだろう。
見覚えのない番号からかかってきたんだから。