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水蜜桃の刻
第9章 その声
ひとり、私は昨日のことを思い出していた。
結局、私は先生に連絡してしまった。
夜の少し遅めの時間。
けれど、先生は電話に出なかった。
そして、折り返し連絡をくれることもなかった。
小さく、溜め息をついた。
駆け引きなんてできない。
先生を相手にそんなこと、私にはできやしない。
先生が、連絡してって言ったから。
私も、また会いたかったから。
この再会をどう考えたらいいのか。
どう動くべきなのか。
私はいったいどうしたいのか。
そんなことは何もわからないまま、先生に連絡していた。
連絡しないという選択肢は自分の中にないことだけはわかっていた。
連絡しなければ先生は気になるかな、私のことを……なんて思っても、そんなこと結局できやしない。
私にできるわけない。
再会するまでの、ある意味穏やかだった日々の生活。
それが、これからどうなっていくのか──まだ私には想像できなかった。
連絡が来れば、私はまた先生と会うんだろう。
会えば、きっと心は揺れるんだろう。
そうしてきっと、苦しくなっていくんだろう。
それがわかっているのに、むしろそうなりたいとでもいうかのような行動。
先生からの着信はまだ、ない。
いつくるかもわからない。
くるのかすらわからない。
……ほら、もう既に苦しい。
私はまた、溜め息をついた。