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水蜜桃の刻
第9章 その声
「私、ちゃんとメッセージ残しておくとよかったね……ごめんなさい」
緊張しながらかけた電話が繋がらなくて、一度切った後、もう一度かけたらしつこいかな……と思ってしまい、結局それっきりにしてしまった昨日の自分を思い出す。
「……えっと……」
そして、何の言葉を続けたらいいか考えていると
『透子ちゃん、今度あらためてゆっくり食事でもどう?』
先生の方からの提案。
「え?」
『美味しいごはん食べさせてくれる店、知ってるんだ。一緒にどうかな』
その、誘い──心が沸き立つ。
「あ、うん……ぜひ!」
嬉しくて、もちろんすぐにOKした。
いつがいいか聞かれ、休みを確認してからまた連絡する旨を話すと、先生は了承し、そこで電話は終わった。
「……ごめんね」
スマホをしまい、黙ってオムライスを口に運んでいた本郷くんに視線をやる。
食事中の電話をそう謝ると、ちらっと私を上目遣いで見てきた。
「……いえ」
口元に浮かんでいた笑みに安心し、自分も食事を続けようとスプーンを手にする。
彼はもう半分以上食べ進んでいたから、少し急ぐようにオムライスを口に運んだ。
「大丈夫ですよ、急がなくても」
「え?」
かけられた言葉に彼を見ると
「こっから俺、鈴木さんよりゆっくり食べます」
そう続けられ、にっと笑われる。
「……ありがとう」
そのさりげない優しさに感謝して、私はペースを戻した。