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水蜜桃の刻
第9章 その声
彼から少し遅れて食べ終わり、スープの入ったカップを手に取り、こくんと一口飲んだとき、彼が言った。
「 ……ねえ鈴木さん、電話の相手って友達?」
突然のことに、え? と思わず一瞬手が止まる。
そのまま彼を見ると、私に向けられていたその目とすぐに視線が合い、どきりとしてしまった。
「うん、まあ……」
けれど先生のことを詳しく話すつもりもなかった私は、そんなふうに曖昧に言葉を返して視線を逸らす。
「男の人ですか?」
なのに、カップをテーブルに置いた途端、本郷くんはさらに聞いてきた。
ん? とそれには何も答えずにいた私にまた
「……なんか、いつもの鈴木さんじゃないみたいだった」
そう……そんな言葉まで。
「そんなことないよ?」
何でもないようにそう答えながらも、心臓の音は少し早くなっていた。
「……久しぶりに会った昔の知り合い。
今度一緒に食事でも、って話になったの」
これ以上追及されたくなかったから、この話をもう終わらせようと最低限のことだけを伝え、あとは口を噤んだ。
本郷くんも、何も言葉を発しない。
少し気まずいような雰囲気の沈黙が訪れ、どうしようかと思ったとき、食後のコーヒーが運ばれてきた。
ほっとして、運んでくれた店員さんに向かって心の中で感謝する。