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水蜜桃の刻
第9章 その声
ブラックのまま、カップを口に運ぶ彼。
それをソーサーに戻しながら
「……鈴木さんって、俺の中ではいつもけっこうクールな印象だったんですよね」
突然、そんな話をされ、え? と彼に視線を向けた。
「でも、さっきみたいな顔もするんだな、って……それ、なんかちょっと意外でした」
その言葉に、そんなに私は先生との電話で表情を崩していたんだろうかと少し焦りながらも
「……仕事とプライベートの違いってだけでしょ?
本郷くんだって、そうじゃないの?」
コーヒーに砂糖を入れ、スプーンでかき混ぜながら、そう……何でもないことのように返す。
「俺はたぶんあんまり変わんないと思いますけど」
その、少し不満そうな色を纏っているかのような声。
「自分でそう思ってるだけかもよ?」
それでも、私はあくまでもそれを通した。
「……そう、なんですかね」
小さく呟くような彼の声に、そうそう、と答える。
そのまま口にしたコーヒー。
「まあ……そうかもですけど」
続けられた微かな声は、スルーした。
なんだか居心地が悪いような微妙なこの雰囲気から早く逃れたくなる。
コーヒーを早く飲み終えてしまいたいのに、猫舌の私には少しつらいくらいの熱さで、なかなかそうできなかった。
カップを持ったまま、視線は下方へと向ける。
本郷くんが再びカップを手に取り、そして数秒後、そこにまた戻すのを視界に確認したときだった。