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水蜜桃の刻
第9章 その声
思ってもいなかった先生との再会。
今の私の頭の中は、そのことで……先生のことでいっぱいで。
昨日再会したばかりなのに、もうそんなふうになっていた。
教えられた携帯の番号。
繋がらなかった電話。
そのまま過ごした、夜から今まで、もう先生のことしか考えていなかった。
そして、かかってきた電話。
先生からの食事の誘い。
会えば、この心が揺れるのはわかっているはずで。
募る想いにきっと苦しくなっていくに違いないことも。
でも、誘われた嬉しさの前に、その不安はまるで一瞬にして消えてしまったかのように頭からはなくなって、また先生に会えるというその嬉しさだけで、私は即答してしまっていた。
そしてまた……少し冷静になれば浮かんでくる、いろんな気持ち。
何も消えてしまってなんかいないことを思い知る。
声を聞いただけなのに、一瞬にしてあんなにも心がざわめいた。
先生の、その低めの心地いいトーンの声。
私の耳から、そのまま体内を満たすようにして流れ込み、心臓を高鳴らせ、脳を甘く痺れさせる。
思い出せば、また胸が高鳴った。
俯いて、小さく息を吐く。
「鈴木さん?」
すぐにかけられた声に、ん? と顔を上げれば、本郷くんと目が合った。
「俺、しゃべりすぎですか?」
え? とその言葉に一瞬戸惑う。
彼は何を話してたんだっけ──そんなふうに思い、また失礼なことをしてしまっていた自分に気づき、少し恥じた。
「ううん、全然」
首を振り、答えれば、私の様子を窺うかのような表情をほっとしたように緩ませる本郷くん。
続けられた言葉に、自分のお気に入りのお店の話をしていたことを理解し、それからは彼の言葉をちゃんと聞いた。