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水蜜桃の刻
第9章 その声
職場に戻ると、同僚の加奈ちゃんがおかえり~と迎えてくれた。
荷物を一度置いてから化粧室に向かおうとすると、加奈ちゃんもついてくる。
「本郷とのランチはどうだった?」
並んで歩きながら、にやにやと私の顔を覗き込むようにする。
「え? 普通においしかったよ」
「……そういうこと聞いてるんじゃないんだけど」
もちろん、加奈ちゃんの言いたいことはわかっていた。
「私より本郷とのランチを選んどいて、それで終わりはないでしょ~」
そうなった経緯はちゃんと説明してあったから、彼女が冗談でそう言っているのはわかる。
苦笑いをして誤魔化し、化粧室の鏡の前に並んで立った。
「で? 言われた?」
鏡の中の私を見ながら、加奈ちゃんが言う。
曖昧な笑みを返すと、まだか……と呟いた。
「透子のこと好きなのもう丸わかりなのにね」
簡単に化粧を整える私を見ながら、そう続ける加奈ちゃんは、で? と私の反応を窺うようにする。
「告られたら透子はOKするんでしょ?」
その言葉に、口紅をポーチにしまいながら私は首を振った。