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水蜜桃の刻
第10章 高揚
時間になり、私はまた辺りを見回す。
先生はどっちから来るんだろう──そう思ったときだった。
「……あ」
視界に入ってきたその姿に、どくん……と心臓が跳ねる。
先生……ちゃんと来てくれた────。
勝手に口元が笑ってしまった。
胸がどきどきと、嬉しさと、緊張を訴える音を鳴らす。
そんな中、先生も私の姿を認めたのか、少し小走りするように近付いてきてくれた。
……それに、嬉しくなる。
「ごめんね、待った?」
その言葉はまるでデートみたいだ。
ふるふると首を振りながら、高まっていく気持ちを必死で押さえ込むようにして、今日も私はやっぱり平静を装おうとしていた。
どこまでそうできるかなんて、わからなかったけれど。
木のぬくもりを感じる落ち着いた店内に差し込む柔らかな光。
雰囲気がいいそのお店を私はすぐに気に入ってしまった。
店員さんに案内されたボックス席で、先生の向かい側に座る。
女の子は好きかなと思って、なんて言いながら、差し出されたメニューブック。
野菜がたくさん使われているものが多いらしく、こういうの好き、と言って笑う私に先生はおすすめを口にしていく。
長く綺麗な指で指し示されるとなんだかそっちにばかり意識がいってしまいそうになる自分を戒めるように、先生の言葉に集中した。