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水蜜桃の刻
第10章 高揚
「……でもまさか透子ちゃんとこんなふうに外で会うことになるなんてね」
おすすめされた、かぼちゃが器になっているグラタンに舌鼓をうったあと、食後のコーヒーを飲みながら先生が不意にそう口にした。
こくん、と頷き、それだけじゃ言い表せない気持ちに背中を押されたように
「なんだかまだ夢みたい────」
思わずそんな本音が口から出る。
でもすぐにその内容に気づいた私は焦った。
「あ、その、別に深い意味はなくて……!」
そんな、慌てながらの言い訳。
これじゃあまるで、本当に意味があるみたいだ。
「へえ、じゃあどんな意味?」
楽しそうに返してくる先生の顔は、明らかに私の動揺を楽しんでいるかのようで。
「……っ、それ聞くの?」
抗議すれば、ははっと笑い、視線を下に向ける。
その白い歯が零れる爽やかな笑顔。
そのまま前髪をうるさそうに少しかきあげる、その仕草。
どうしよう、目が離せない。
見とれてしまう────。
「……嬉しかったから」
無意識のうちに口が動いていた。
先生の手が止まる。
「先生に会えて」
その視線が、私に向けられる。
笑顔が静かに消えて、閉じられた口元が、やがて少しだけ開く。
「……俺も」
嬉しかったよ──そう、この前のように呟く先生。
同時に片側の口角がほんの少しだけれど上がったことに私は気づいて。
────っ……!
きゅうっ、と胸が疼いた。
私と同じ気持ちだったという先生のその言葉にたまらなくなる。
深く俯けば、さらりと落ちてきた自分の髪が視界に入ってきた。