この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
水蜜桃の刻
第10章 高揚
すっ……と。
不意に伸ばされてきた綺麗な指が、その髪をすくいあげるようにし、またそのまま落とす。
硬直した。
先生に触れられた髪。
一瞬ぞわりとしてしまった。
「この前言い忘れたけど、透子ちゃんショート似合うね」
そして自分の言葉に頷くように、うん、と言葉を挟んでから
「可愛い」
そう、続けた。
深く落ち着いた綺麗な声で。
音のない波紋を描きながら、心に……身体に染み渡っていくような、甘い余韻を纏った、その声で。
嬉しい。どうしよう……すごく、嬉しい。
可愛いって。
私に、可愛いって、先生が。
顔が火照るのがわかった。
同時に自然に笑ってしまいそうになる口元。
堪えるように内側で、下唇をそっと噛んだ。
両サイドの髪を頬に沿わせるように弄り
「……先生、そういうこと言うの恥ずかしくない?」
顔の赤さを誤魔化すようにしながら、上目遣いで抗議する。
「え?」
何のこと? とでも言わんばかりの態度で見られ、私は大袈裟に溜め息をつき、頬に両手をあてた。
手の冷たさが気持ちいいと感じるくらいそこは熱を持っている。
ん? と先生の目が私を真っ直ぐに見てくる。
私のすべてを見透かされそう──そんなふうに感じてしまうほどの、この、落ち着かなさ。
……たまらなくなる。