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水蜜桃の刻
第10章 高揚
「先生、見すぎ!」
もう! とわざと明るく口にして目を逸らし、コーヒーのカップを手にとった。
「そう? ごめん」
先生はいつもの笑顔ですぐにそう言い、こくんと飲んだ私に続くように自分も、そうする。
心臓のどきどきは治まる気配がなかった。
「でもほんと、ショートカット似合うよ」
先生がカップの取っ手を持ったまま再度口にした言葉に
「……ショートってほど短くないと思うんだけど……」
照れ隠しのように、そんな言葉を返す。
「そう? ごめん、髪型の名前あんまり詳しく知らせなくてさ」
「……ショートとロングしか知らなかったりして」
「失礼だな。セミロングも知ってるから」
「何それ。むきになってる」
「なってません。
透子ちゃん、それ先生に対する態度じゃないよ」
「もう先生じゃないくせにっ」
私の言葉に、ああ……と先生が今、それにようやく気づいたかのように
「……確かに」
それもそうだね、と続け、ははっ、と笑う。
つられるように私も笑い返した。
そんな中
「だったら透子ちゃん、もう一度生徒に戻ってみる気ない?」
そう、誘われた。
その言葉の意味を、え? と考えて、でもすぐに理解する。
「……あ、先生の勤めてる教室で?」
そういえば先生は英会話教室で仕事をしているんだった。