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水蜜桃の刻
第10章 高揚
「やだ、元教え子に営業?」
くすっと笑えば
「ははっ、そういうんじゃないよ。
……ただ俺、透子ちゃんに『先生』って呼ばれるの嫌いじゃないな、って今なんかそんなふうに思ったから」
「……だって先生は私の中ではずっと先生だもん」
「うん」
「先生以外で呼ぶのなんて……なんか変な感じがするし」
「だよね」
「だから、もう生徒じゃなくなったけど、これからも先生って呼んでいい?」
勿論、先生はそう答えて
「……って、いま遠回しに断ったでしょ、うちへの入会」
そんなふうに続け、笑った。
「あ、ばれた?」
「ばれました」
ははっ、とまた。
この掛け合い。
そう、10年前もこんなだった。
こんなふうにいつも先生とは話してた。
思い出す。
あのときの先生、あのときの自分。
先生を前にすると、気持ちがあの頃にどうしても戻ってしまう。
無邪気に、ただ、先生を慕っていたあの頃に。
こんな私を職場の人が見たらどう思うだろう?
本郷くんみたいにやっぱり驚いたりするのかな──そんなことも考えてしまうほどに。
ああ……どうしよう。
なんだかもうどんどん好きになってしまう。
先生と話しながら、私は確かに感じていた。
満たされずに心の奥でずっとくすぶっていた想い。
抗えない力によって引き出されて、こんなにも簡単にまた火がついてしまったことを────。