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水蜜桃の刻
第10章 高揚


「……そんなの気にしなくてもいいと思うよ」


そして静かに発せられた先生の言葉。


「元教え子と飲むなんてよくあることだと思うし」


そう続けられた私は、だよね、と呟くようにそれだけを返した。


先生が口にした言葉の意味。

私の言葉は否定されなかった。
そして、気にしなくていい、って。


ということは。


……やっぱりいるんだ、彼女────。


一気に、心が重くなる。


当然だよね……いないわけ、ないよ。
先生、今もこんなに格好良くて、優しいんだもん。

この前、結婚はしてないって知ったけど、もう一歩踏み込んでは聞けなかったから。
それを今……こうして聞いたけれど。

やっぱりあのとき一緒に聞けばよかった。
知るなら、早いうちの方が絶対よかった。
だってあのときより今の方が、私は間違いなく先生のことが気になってる。

……聞いていたら、先生を気にならないでいられたかなんて、そんなのわからないけど────。


「……まあ、一般論だけどね」


けれど不意に耳に届いた、その言葉。
先生の胸元まで視線を下げていた私は、え……? と顔を上げた。


「一般論……?」


思わずそう聞き返してしまった。


「だって俺、そういうの関係ないし」


関係ない……?


私はいったいどんな顔をしていたのだろう。
苦笑いした先生が


「彼女なんていないから、透子ちゃんはそんなの気にしなくていいってこと」


そう言って、ぽん、と私の頭に軽く手をのせる。


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