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水蜜桃の刻
第10章 高揚
「……うそ」
勝手に口をついて出たのはそんな呟きだった。
それしか、出なかった。
頭の上に置かれている手に意識がいかないほど、先生のその言葉が今、私のすべてを支配していた。
「何で嘘つく必要があるの」
困ったように笑う先生。
頭から、離れた手。
「いないのって変?
でも透子ちゃんも彼氏いないって言ってたじゃん」
「……あ、うん、それは……」
それは、そうだけど────。
でしょ? と、先生が優しく微笑む。
それから時計を見て、小さく息を吐いた。
「ごめん。時間だから、今日はこれで」
また後で連絡するよ、と言われ、我に返った私は
「あ、うん……!」
そう、慌てて返事を返す。
じゃ、と私に背を向けて去っていく先生。
その後ろ姿を少し見送ってから、私は反対方向へと歩き出した。
高揚しているかのようなその気分はしばらく冷めそうになかった。
だって、先生、彼女いないって……確かにそう言った。
どうしよう、嬉しい。
すごく、すごく、嬉しい……!
勝手に、顔が笑ってしまいそうになる。
先生。
私、先生のことまた好きになっていい?
……ううん、間違いなくもう好きになってる。
こんなに心が騒ぐ相手、やっぱり他にいない。
ねえ、先生。
先生も私のこと、今度はそういう対象として見てくれるよね?
だって今はもう私たちは先生と生徒なんて関係じゃないんだから。