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水蜜桃の刻
第12章 切迫


……もう、私は先生から目を逸らすことすらできなくなっていた。
ただ、立ち尽くすようにして……そうして、先生を見つめ続けることしかできなくなっていた。


「あのときの電話の彼?」


先生は、緊張したままその目を見つめる私の頭の中を探るように、聞いてくる。


「……あのとき……?」


私はもう、呟くような声しか出せない。


「嘘ついて、会うの断った相手」


それに、はっきりとした口調で返してくる先生。


「……彼はただの職場の後輩────」

「ただの?」


かぶせるようにしてそう言い、は、とまた、口元を歪めるようにして笑った。


「向こうはそう思ってないでしょ。
……透子ちゃんのこと、好きだよね?」


無言のまま下唇を噛んだ私に、先生は溜め息をつきながらなおも続ける。


「もう好きだって言われた?」


え……? と掠れ声が漏れた。

先生のその言葉に思い出した、さっきのこと。
あの真っ直ぐな、本郷くんの目……。


思わず俯いた私に


「言われたんだ」


その答えを感じ取った先生が、呟く。

先生のあの視線から逃れた私は、口元に手をやり、声が震えてしまわないようにその手に唇を押しつけながら言った。


「先生には……関係ない」


それがもう、精一杯の言葉だった。


何で──何でこんなことになってるんだろう。
私、何かしたんだろうか。

こんな展開なんてまったく予想していなかっただけに、どうすればいいのか、何を言ったらいいのか、もう何もわからない。


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