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水蜜桃の刻
第14章 氾濫

首を振ると、だったら、そう彼は口にする。
「俺、待つんで」
「え……」
「その人がだめだったら、俺のこともう一回ちゃんと考えてください」
「……何、言ってんの……」
あっちがだめならこっちだなんて、そんな考えは──そう、戸惑いながら見つめた彼の顔。
とても冗談を言っているようには見えない。
「……そんなことできるわけないじゃない」
「なんで? 俺がいいって言ってるんですよ」
私の言葉を遮る、その引かない態度。
「俺のこと考えんの今は無理なら……考えてもらえるようになるまで待つしかないから」
「……なんで?」
「なんで、って……鈴木さんのこと好きで、そう簡単に諦められそうにないからです」
それだけですよ──という、その彼の言葉が理解できない。
「……私のどこがそんなに」
本郷くんに好かれるようなこと、私は何かしただろうか。
ただ、普通に仕事をしていただけだ。
プライベートの付き合いなんてなかったし、お昼をふたりで一緒に行ったのもこの前が初めてだった。
飲みの席だっていつも誰かしら他にいた。
そんな状態で、いつ彼から好意を持たれたんだろう。全然わからない。
彼は少し考えるようにして、それから口を開いた。
「……いろいろありますよ。
仕事中、いつも他の人をさりげなくフォローしてたり。俺にも、何でもないことのようにそうしてくれたり……まるで当たり前みたいに」
「そんなこと、誰だって」
「誰だって、じゃないです。
俺、周り見てるからわかる」
彼はそう言い切り、そのうち……と続けた。

